『閃光スクランブル』感想

死んだようにいきてる場合じゃない

閃光スクランブル

閃光スクランブル




発売から2週間もたたないうちに重版が決定したようで。おめでとうございます。簡単ですが感想を備忘録として。ネタバレありますのでご注意ください。







全開が絵のような小説だとしたら、今回はドラマのような小説でした。主人公が2人という点、それが女性アイドルとそれを追うパパラッチという点。本人も言っていた通りエンターテイメント性に富んでいたと思います。きちんと時間軸があって、時の経過に伴ってどんどん物語が進んでいく感覚。登場人物の動きの描写*1がきちんとしている故に映像のイメージがつきやすい。個人的にジャックという非現実的な存在がひとつ描かれていたのが好みです。あえて描くことで亜季子の暗い部分は読み取りやすかったし、それこそ小説として単純なものじゃなくなった気がします。それに、伏線を張っての、全色盲との告白。ハッとしてしまいました。上から目線だけど、やるじゃん!って(笑)。そこに着目して描かれていたなんて思うともう一度読むのが更にたのしいです。


映像を思い起こしやすかったのは写真展を開催したことも大きな理由のひとつだと思います。主人公・巧に扮したシゲの写真が数点あったせいか、読んでいる時に自然と巧はシゲをイメージしましたし、またこういう試みはアイドルをやっている作家だからこそできることですね。ちなみに写真展、紀伊国屋書店の中のホールでの開催、しかも無料ということで会期中は2回行ったけどこの企画には本当に拍手です。素晴らしい。



小説の話に戻ると、再びアイドルが主題になっている今作、改めてアイドルも作家も生半可な気持ちでやっていないんだなと思いました。彼にとって一番簡単そうに見えて、実は一番難しいテーマなのかもしれない。アイドルである作者に連想できる、ある種生々しい表現はいくつもあったし、だけど主題をこうした手前「ここまで書いてしまったらアイドルとしてやりづらい」と思ったらたぶん作家としてそれ以上にはなれない。そういった意味でいうと彼にはもう裏表がなく、本気で、とてもまっすぐなのかもしれないです。



少し前にとある先生に「人は死んでゆくけど、(何かを感じ取るのは)一人なんだよね。だから感じたものを比べられない。でもその人が恋い焦がれたものの断片を残せて、そこに他の誰かが感じられたら、また残る。それが芸術だと思ってる。」というお話を聞きました。
このように小説や文学作品に関して特に造詣もない上に作者をアイドルとして応援してしまっている以上、冷静な感想は書けません。だけどこうして、作者…というより、シゲが焦がれたそのものの断片に言葉を通してすごく密に触れられることがやっぱり嬉しくて面白くて、また次に期待をかけるしかないです。

*1:ケンカのシーンとスクランブル交差点でのゲリラ撮影のシーンは特に